kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

「バカの壁」を読んで

私は自分が一番賢いと思い込んでるタイプのアレなのでこの手の啓蒙書は基本的に読まないのですが、一度私の言うことが「バカの壁」に似てると指摘されたことがあるのでkindle日替わりセールになった時に買ってみました。

 

「人間は知りたいことしか知ろうとしない」ってのは私もよく言うんですが、「バカの壁」ってこれをわざわざ相手を貶める意味を込める為に作った造語なんですね。部分部分は頷ける主張もあるんですが、この本の著者は基本的に自分の偏見を肯定する為に理論展開していて、ご自身が「バカの壁」に囲まれて客観的な視点を失っているのに気づいてないところが、自分で自説を肯定するための回りくどい手法なのかただの天然なのか判断に悩むところです。

 

この人の他の本を読んだことがないので断言は出来ないんですが、今回は著者の口述を編集サイドで文章化したようなので、聞き手が優秀であったが故の惨状なのかも知れません。書いてる場合は自分のペースで書く内容を吟味できますが、喋ってる場合はどうしても相手に合わせる部分が出てくるので、聞き手が分かってる風だと必要な説明や細かい注釈を省いちゃったり、気持ちよく聞いてくれるのでつい調子に乗って普段は言わないようなことまで言っちゃったりした可能性はありますね。

聞いてる側が不特定多数の公演でも結構影響あるのに、特定の人相手に喋ってるならいっそ対談やインタビュー形式にすればよかったのに。多分聞き手は私と同じ40代くらいのインテリ層だったんだろうと予想。だからこの本をこの著者の本音と判断するのはちょっとアレですね。

そんな訳なのでこの本の細かなところを突っ込むのはあまり意味がない感じです。気に入らない部分は自覚的に「バカの壁」を作って無視して、気に入った部分をつまみ読みするのがいいと思います。

ただ特に思想もなく若者批判がしたいだけの人はこの本を読んで偉い人のお墨付きを貰ったと勘違いして攻撃性が増す可能性があるし、自分で努力もせずに上の世代から搾取されていると責任転嫁したい人にとってはいい攻撃目標になるので、そーゆー傾向のある人は読まないほうがいいでしょう。啓蒙される為に読むもんじゃございません。まあそれはあらゆる啓蒙書にも言えることなんですが・・・

 

この著者の残念なところはちょっと言語的思考に頼りすぎているところですかね。活字で書かれている本なので言語に頼るしかないという部分はあるのですが、それ以前に言語を絶対視しすぎているような気がします。言葉なんてけっこう曖昧なものだからある程度の幅を持たせて解釈する方がいいんですが、それを凄く狭い幅で厳密に定義しようとして色々齟齬が出てるんじゃないかと思います。ほら、よくネット上の議論なんかで相手の言いたい本筋じゃなくて、ちょっとした表現の行き違いを指摘して勝ったつもりになってるちょっと可愛そうな人達がいるでしょ、あんな感じです。この本では個性なんてものは身体的なものしか存在しないって言ってますが、それも恐らく言語を重視しすぎたのが原因でしょう。

思考についても個性は存在するのですが、そうした人は言語化した思考から外れる傾向があるので言葉では説明しづらい訳です。物事を知識として知るのでなく直感として理解するには一種の論理の飛躍・・・ひらめきとかそんな現象が必要なのですが、普通ならそんな都合よく起きない現象を非言語的思考で起こりやすくしちゃえる人がいるのです。この本を読む限りこの著者もそうした人には何度も出会ってると思うんですが、そーゆーのも生まれ持っての資質による差だと思っちゃったんでしょうね。言葉でうまく説明できない人間の差異を能や神経の違いと決め付けて考えるのを辞めちゃった感じ。もう一歩踏み込んでりゃ言葉の呪縛から解放されてたかもしれないのに・・・

それが物事の一面だけ捉えて批判するような、この人の偏見の温床になってるんじゃないでしょうか。

 

人間は気づいてないだけでけっこう言語を使わず思考してるものだし、この本読む限りこの著者もある程度は経験則的に分かっているのに、それを無理に言語で定義しようとして失敗しちゃって、そこに「バカの壁」作っちゃって引きこもってるのはいろいろ惜しい感じですね。