kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

「風たちぬ」を見てきて

実は私、ジブリの映画を最近見てないんですよね。最後に映画館で見たのは「もののけ姫」かな。あれがあまりにもナウシカの焼き直しだったので、もう新しいものが出そうにないなと思って以来わざわざ映画館に見に行くのやめたんです。

だってジブリの映画を上映してる東宝系の映画館って私の近所では狭い部屋は席の間隔まで狭くて窮屈なのが多いし、大きい部屋で満席状態だと人の入替えが出来なくて映画始まっても入場できなかったりと、あまりいい思い出がないんですよね。よほど興味がある映画でもなきゃあんなとこにわざわざ出かけたくありません。でもね、今回はゼロ戦の開発者のお話って言うじゃないですか、ひゃっほう「雑想ノート」時代の宮崎さんの復活だぜってことで突撃してきたんですよ。「雑想ノート」はガールズ&パンツァーでもネタ元になってたりしましたからね、気分的に凄くタイムリーだったんです。

そんな訳で見てきた感想ですが、まあ、これは遺言ですね。

勿論、宮崎駿さんの遺言じゃないですよ。あの人がどう生きてきて何をしたかなんて語れる人はまだ一杯いるだろうし、そんなことをわざわざ映画にする程暇な人でもないでしょう。その程度のことならそれこそ今回の映画の主役声優の、もはや過去の人気作の焼き直しでしか注目されない人にでもさせればいいんです。

これは宮崎さんを育ててきた・・・と言うか宮崎さんが関わってきたかつての大人たちから、宮崎さんが受け取ってきた遺言なんだと思うのです。ずっと最先端を走り続けてきて、後続がうまく育っていないことに気を揉んで、ふと気がつくと自分の前にいた人達が居なくなっていた・・・自分が最年長になることが多くなってきた時に、自分のことなら後の人達が語れるだろうけど、自分の前に居た人達のことを語れるのは自分達だけになっていたことに気づいてこの映画を作ったんじゃないでしょうか。まだ貧乏だった国ががむしゃらに頑張っていた時代のことを、当時の人達から直接聞いていた世代として残しておかなきゃいけないと思ったんじゃないでしょうか。

 

私は「サマーウォーズ」を見た時に、ようやく昭和という時代が終わったんだなぁと実感しました。あれが上映された時、物心ついてから過ごした時間が昭和より平成の方が長くなってたんですよ。もう昭和の頃の感覚より、平成での感覚の方が当たり前になっていた事に気づかせてくれたのがあの映画でした。

たかが年号が変わったくらいで大げさなと思う人もいるかも知れませんが、昭和から平成というのは携帯電話やインターネットが出現して普及していった時期に一致してるんです。

情報に対する体感速度が全然変わっちゃってるんですよ。

今なら事故で助けてくれた親切な人を探したいならTwitterでつぶやけばいいし、山奥で療養している人とだってメールやら携帯やらでいつでも繋がっていれる訳です。ネットも携帯もない時代の話は頭では理解できても、もう体感的にはついていけないんです。昭和の方が随分長い宮崎さんですら、夢という便利な連絡手段を用意しなきゃ物語が組み立てられなくなってる訳じゃないですか。昭和という時代は時間が経てば経つほど多くの人の中で終わっていくのです。

 

宮崎さんはまだ自分の中の昭和が完全に終わる前に、この映画を作ったんじゃないでしょうか。ストーリーとか思想なんてのは二の次で、風景とそこに暮らす人々を描くのが目的だったんだと思います。世界中の情報が距離や階級で分断された世界を映像の中に残しておきたかったんだと思います。

だからぶっちゃけ私はこの映画のことあまり面白いとは思えなかったんですが、行くべきかどうかと聞かれたら行くべきだと答えておきます。見に行った上でその時代のことが気になったのなら、他の本で掘り下げていくのもいいんじゃないでしょうか。

私のお勧め本は「帝国ホテル 厨房物語 私の履歴書」ですね。

 

これはこの映画の主人公と違って「ピラミッドのない世界」を選んだ側の人の自叙伝で、戦前・戦中の話がメインではありませんが、それが逆にあの時代を特別視せずにずっと連続してきた一部分という感覚で味わえる貴重な一冊です。「ピラミッドのある世界」を選んだ兵器の設計者が安全な所で過ごしながら後悔に苛まれてるのに、「ピラミッド」とは無関係な料理人が戦中は最前線で死の危険と隣り合わせになりながらも前向きに生きていて実に対照的でいいですよ。

 

本音いうと、兵器好きの戦争嫌いな人の言い訳が鼻についた映画でしたね。私も兵器好きの戦争嫌いだから分かるんですが、兵器大好きって言うだけで「軍靴の音が・・・」とか「軍国主義が・・・」とか言い出す馬鹿が世界中に多すぎるんですよ。兵器が格好いいという気持と戦争はするべきでないって思想は十分両立できるんです。

戦争なんて過去のそれだけが悪いなんてことはなくて、現在だろうが未来だろうが現実ではやってはいけないことなのです。未だに軍隊を抱えてる国なんてことごとく悪の枢軸なんですよ。

宮崎駿さんにはそんな我々の先輩として世間にがつんと言って欲しかったというのがホントの気持です。そんなことすれば勘違いした似非平和主義者の総攻撃を受けるのは分かりきってるし、本物の軍国主義者まで近寄ってきて煩わしいことになるのは目に見えているので無理は言えないのも承知しているのですが・・・

特に今の麻生さんのナチス発言騒動見てるとね、あれようはもっと改憲に慎重になろうって趣旨の話なのに言葉の一部だけ切り抜いてぎゃーぎゃー騒いでる馬鹿が沸いてる訳じゃないですか。あんなの見てると兵器大好きなんて迂闊に言えないですよね。

 

宮崎さんにはもっと巨大なメカが街を破壊しまくって子供達が戦火の中を走り回って

大人達のサポート受けつつ悪い奴らを懲らしめるような、物語の中でしか再現できない痛快娯楽劇を作って欲しいんですけどねぇ。