kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

「八犬傳」を読んで

貧乏性が祟って前回のカドカワセールで十冊程度の本を購入したのですが、買って良かったと思えたのは山田風太郎さんの「八犬傳」だけでした・・・

 

南総里見八犬伝は中学の頃に古典全集みたいなシリーズで読んでいて、当時は一日に一冊は文庫を読んでいた私が一週間以上かかったという難物でした。文体も難しく注釈もびっちり書いてあるような本だったというのを置いといても、とにかく長いんですよね。読んでる時に今何を読んでいるのかよく分らなくなるくらい枝葉の話が多くて・・・

 

そんな訳で原作に忠実なお話ならノーサンキューな気分だったんですが、これは文庫二冊分と短いし、山田風太郎ならケレン味のある対決シーンの連続に違いないと思って購入。
本の構成が、馬琴が八犬伝の内容を北斎に聞かせるという、八犬伝パートと馬琴パートに分かれているというのは購入前から知っていました。
だから期待してたんですよ。
八犬伝には天下を揺るがす秘密が隠されており、実は北斎はそれを手に入れんとする隠密忍者、馬琴は剣術の達人で、北斎の幼術と馬琴の秘剣が江戸の泰平を切り裂く・・・みたいな話だと思っていたんです。


そんな期待は見事に外されました、いい意味で。

 

実際には馬琴パートは「のんびり江戸日和」という感じで、北斎以外にもその時代の有名人がちょこちょこ出てくるものの、倹約家で知られる馬琴を中心とした江戸時代の泥臭い庶民の日常が描かれてます。私はこれを読むまで気づかなかったのですが、京極さんの百物語と時期が重なってるんですよね。
あの時代が好きならこれだけでも十分おつりが来る出来だと思います。

 

八犬伝パートも枝葉の部分はバシバシと端折ってますが、派手な脚色はなさそうです。あくまで原作の持ち味を生かして、そこから外れないように書かれてます。
おかげで原作自体が大きく外していると山田さんが考えているところは、「ここは面白くないから省略する」とはっきり書いてたりします。

 

山田風太郎さんの本としては意外にも実直な感じですが、それが逆に良かったです。江戸時代が好きな人や、八犬伝の話をてっとり早く知りたいという人には当然お勧めできるこの本ですが、普段から物語ではなく作家そのものにも興味があって作家のエッセイなんかよく買っているというような人にも超お勧め。

山田さんの目を通して、ケチで意固地で威張りん坊な馬琴の世知辛くも物悲しく、真面目だけど不器用な家長としての生き様、そして哀しい程に貪欲でどこか美しい作家としての性質が垣間見れます。
もうね、山田さんの「馬琴なんか大っ嫌いだけど大好き」な感じが萌えですよ。
まさか21世紀になって山田風太郎さんの本で萌えを感じるとは思わなかったです・・・