kindle沼日記

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伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」を読んで

こりゃ感想を書くのが難しい本ですね。

ストーリー自体は凄く面白いし、映画になる予定もあるようなので、興味のある方はこの本を読むよりそちらを待った方がいいと私は思います。

 

これは短編集の方でプロローグを読んだ時に、無茶苦茶面白くなるだろうと確信していたんですよ。
時代背景はシャーロック・ホームズが活躍する少し前。
フランケンシュタインが発見した死体の操作技術が一般化して、屍者を労働力として活用されている世界。まだ学生で医学的観点から屍者に興味をもっていたワトソンがヘルシング教授に出会い、彼の紹介でホームズの兄と思われる人物が管理する機関の諜報員となる。
これはもう面白くなる要素しかないじゃないですか。

 

いや、その続きのストーリーも面白いんですよ。
ワトソンが屍者技術をめぐる抗争というか陰謀に巻き込まれて、その謎を追究する為にリットン調査団の一員となって日本を訪れたり、ピンカートン探偵社のエージェントと共闘したりとか、他にもカラマーゾフ兄弟とかトーマス・エジソンとかチャールズ・ダーウィンとか、あの時代を彩る様々なキーワードがちりばめられていて、こんなストーリーが面白くないはずがないのです。
そう、ストーリーはとても面白いのです・・・

 

面白いストーリーを分かりづらい文体でだらだら書いたらどうなるかという、壮大にして無駄な実験をしたのがこの本でしょう。


一言で言うと、とても読みづらいです。
読みながら何が読みづらいのか自分でも不思議だったんですが、テンポというかリズムが平坦なんですね。
会話してても一人で推論してても銃撃戦してても同じテンポで淡々と進行するので、場面転換が分かりにくいんです。さっきまでカフェで談笑してたと思ったらいつの間にか荒野で銃撃戦しながら長い思索に耽っている・・・みたいな感じで、文章にあまり抑揚がなくて全部のシーンがだらだらとつながっているように感じるのです。
起承転結ではなく、ひたすら承みたいなイメージ。
ストーリー的にはきちんと起も転もあるので、単に私が好む書き方ではないというだけかもしれません。


個人的には円城塔さんが伊藤計劃さんの文体をまねて書くというのは大失敗だったと思います。少なくとも私には、これがうまくエミュレート出来ているとは思えませんでした。
せっかく面白い物語を作ったのに、無茶な味付けで台無しになった残念感ばかり大きくなる本ですね。


そんな訳で映画の方には激しく期待しております。