kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

芝村裕吏著「宇宙人相場」を読んで

たまには毛色の違うものを読んでみようと思って、kindleのセールの時に買っておいたのですよ。

 

ところで皆さんは中二病的な作品というか、ぶっちゃけ俺tueee系の作品が馬鹿にされやすいのはどうしてだと思います?


私の分析では、それは客観性の欠如と作者の身の程知らずのせいだと思います。
自分のことを妄想して楽しもうとすると、何もかもが自分に都合よくなってしまうのは仕方なのいことです。でも世の中の酸いも甘いも噛み分けると、そうそう都合のよいことなんて転がっていないなんて嫌でも分かります。
だからあまりにも主人公に都合のいい展開が続くと、経験値の多い人ほど白けるのです。
昔の幼稚な自分を見せられてるみたいな気分になっちゃいますからね。

 

また何もかも自分の思いのままというのは、主人公に自己投影している間はいいのですが、その周りの人にとっては迷惑もいいところ。そんな訳で客観的に物を見る人も楽しめません。

 

それ故にその手のお話は中二病・・・まだ若くて経験が浅く自分の周りが見えていないお年頃だと馬鹿にされる傾向がある訳です。主人公が無茶苦茶強くても、周囲への配慮がきちんと出来てたり相手も強くて苦戦したりするようなのは、俺tueeeだとみなされないんですよね。

 

さてそれを踏まえてこのお話を見ると、俺tueeeなのかどうかがかなり微妙。

主人公が35歳専門学校中退の独身オタクというのは別にいいでしょう。
でも高校時代はサッカー部で活躍して体力にはそこそこ自信ありで、年商一億円の会社の社長というのでちょっと怪しくなります。
更に婚活をしようと思った翌日に美少女を助けて、その美少女に付きまとわれてそのまま恋仲になるというのはいかがなものか。この都合のよさ、これは作者の願望を過剰に詰め込んだ俺tueee系に通じるものがあるのではあるまいか。

 

作者もそう思ったのか、バランスを取ろうとしてはいるんですよ。
主人公に惚れる美少女は原因不明の難病のせいでいつ死んでもおかしくない状態なので、他に嫁の貰い手がないのです・・・美少女でも不治の病なら、中年おたくでも釣り合うという訳ですね。
このバランスのとり方が実にオタク臭くて気持ち悪い・・・昔のおたくってなんか妙に卑屈なんですよね。この話の舞台になってるリーマン・ショックの頃なら、中年オタクでも社長で貯金が一千万ある主人公なんて引く手あまた・・・という程ではないにせよかなりの優良株ですよ。
いっそヒロインの設定を元華族の令嬢で何故か主人公に一目惚れしたくらい突き抜けていた方が、逆にバランスがとれていた気がします。

 

この作品のもう一つのテーマである相場・・・金融については初心者にも分かりやすく説明されています。ところどころ分かりやすく説明しすぎてアレな部分もありますが、きちんと相手を想定して書いてあるので客観性は十分です。
つまり客観的に書こうと思えば書ける人なので、展開が主人公に都合よすぎることも狙ってやっていることなのかもしれません。


作者はこれくらい都合のいい方が最近の読者は楽しめるだろうと判断していた可能性はあります。

この本が作者の願望垂れ流しの俺tueee系なのか、それとも作者の想定した読者像に合せて巧みにコントロールされているのか、その辺りを深読みしながら読んでいるとなかなか楽しめる一冊です。

 

ただどちらにせよ宇宙人は蛇足だけど・・・

「中年オタク恋愛相場」で十分だった気がします。