kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

北野勇作著「きつねのつき」を読んで

映画「君の名は。」を見た後、無性に北野勇作さんの「昔、火星のあった場所」を読み直したくなったのですが、kindleストアで検索しても出てこなかったので代わりにこちらを購入。

 

こちらを読むのは初めてなのですが、中身はいつもの北野勇作ですね。
主人公が子持ちなせいか、むしろいつも以上に濃度が濃い感じです。

 

なんと言いますか、自分が何を喪ったのかを明確に自覚しつつ、断固としてそれを認めない強い意志が作り上げた虚構の世界の物語なんですよね。
過去を懐かしむ為の逃避ではなく、運命を否定する為の闘争とでも言いましょうか・・・
ぼんやりとした世界観の地下にふつふつと沸き立つマグマがたぎっている感じ。

 

虚構の世界なので「君の名は。」と違って、どんなに頑張っても既に起こったことは変わらない。
現実を突きつけてくるものを排除しても、どんどん虚構の世界が破綻していくだけ。
半ば諦めつつ、それでも完全に諦めきれない。
そんな世界の物語です。
もし瀧君が口噛み酒のことを思い出せず、入れ替わりのことも忘れられない場合、北野勇作ワールドに取り込まれるのかもしれません。
アナザーサイドの三葉のお父さんは、既に片足を突っ込んでいる感じですね。

 

不思議なことが起こって、不思議なことのままフェードアウトする不思議なお話なので読む人を選ぶかもしれませんが、「君の名は。」の途中で漠然とした喪失感を覚えた人は一度読んでみることをお勧めします。