kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

吉村 昭著 「羆嵐」を読んで

バーナード嬢曰く。」で町田さわ子が熱く語っていた本です。

 

まあ有名な事件を元にしているし、「ユリ熊嵐」なんてアニメもあったしで、読んでいないけど内容もそれを読んだ人達の感想もいろいろ知っていて、あまり読む気はなかった本なんですよね。
まさに町田さわ子曰く「ちゃんと読んでいない」状態だった訳です。

それに実は私、いわゆるノンフェクション系の本はあまり好きじゃないんですよ。
理由はそれらがフィクションだからです。

 

どんなに事実に即して記述しても、そこには著者というフィルターがかかっています。
更に昔のこととなると、事実関係を自分で確かめるのも困難です。
事実の中に混ぜ込められた嘘を見抜こうとすると、果てしない労力を要求されるのです。
かと言って嘘を事実として受け入れるのも要注意ですし。

 

ほら、よく居るじゃないですか。

坂本竜馬のファンです」なんて言うから、ただ有名人の知り合いが多く居ただけの、死後に政治的理由から土佐出身の政治屋達の手で経歴と影響力を盛られまくっただけの人物のファンだなんて、よほどの歴史通に違いないと思ったら、実は司馬遼太郎さんの「竜馬が行く」を読んでいただけだったという落ち。
私なんかは人が良いですから、こいつは現実と物語の区別もつかない馬鹿なんだなと鼻で笑うだけですが、うかつにそんなこと周囲に言いふらしていたら詐欺師によってたかって騙されて、しかも騙されていることに気づかず利益をむしり取られ続けることになりかねません。
あなたの周りにもいませんか、マルチ商法に手を出したり宗教に嵌っていて「坂本竜馬のファンです」とか言っちゃってる人。

 

学生時代、私はまさに司馬遼太郎さんの本を読んで「坂本竜馬のファンです」と言った友人を馬鹿にしていたら、別の友人に「歴史的な影響はともかく、徒歩で何度も京と江戸の間を往復した人は、今の時代だとそれだけでも尊敬に値するよ」と窘められたことがありまして、本をちゃんと読むとはこういうことなんだなと思い知らされたことがあるのです。

そんなこともあって、歴史系とかノンフィクションとかは苦手なんですよね。
その手の本をちゃんと読むことはとても難しいのです。

 

そんな私ですが、今回は町田さわ子を見習って楽しむことを前提に本を読むことにしました。
いや、これはよいホラーですね。
熊の気配はひしひしと感じるんだけどはっきりと姿は見せないところは、映画のエイリアンみたいです。
ただあの映画もそうだったんですが、多くのホラーは終盤で化物が退治されるところで興ざめすることが多いんですよね。
あんなに怖かったのに、結局素人が倒せる程度の奴だったんだって。
アニメの「屍鬼」なんかは終盤で恐怖の対象を退治する側の人間へシフトすることで緊張感を持続させましたが、この本では最後までモンスターの尊厳を保ったまま上手く終わらせていると思います。
初代ゴジラの「あのゴジラが最後の一匹だとは思えない」的な感じというか、
熊はマジで何匹もいますからね。
ひとつの事件が終わりを迎えても、次の熊の影に怯え続け次々と開拓地を去っていく村人達・・・

 

そんな訳で、町田さわ子のようにこれをホラーと割り切って楽しめる人にはお勧めです。

逆にアイドルがナチっぽい制服を着ただけで目くじら立てるような人にはあまりお勧めできません。
恐らく事実からかなり脚色された、見ようによっては相当に不謹慎な内容ですので・・・