ティムール ヴェルメシュ著・森内 薫訳「帰ってきたヒトラー」を読んで
前から気にはなっていたのですが、何故か今頃になってAmazonからお勧めされてしまったので購入。
気になっていたのに読んでいなかったのは、そもそもkindleになかったからなのですが、どうやら文庫化されたことでようやく電子書籍化されたようですね。
自殺したはずのヒトラーが現代にタイムスリップしていたという出落ちネタかと思ったら、意外に面白かったです。
小説だとヒトラーの一人称で書かれていて、彼の内面を覗き見れるのが良いですね。
偏った価値観の持ち主ではあるけれど、悪人ではないどころか本人は良いことをやっているつもりだし、部分的には正しくないけど全面的に間違っている訳でもないというバランスが絶妙だったと思います。
司馬遼太郎さんの作品のような、主人公が過去の人物のくせに何故か一人だけ現代的な思想を持っているみたいな嘘くさい改変はなく、昔の人にしては特殊な感じはするけどそもそもヒトラーだから普通の人とは違うよなという妙な納得感・・・少なくとも現代人の思想ではないですしね。
ただまわりの人達がちょっと都合よくヒトラーのことを解釈しすぎという感じはしますが、まさにそれと同じことが起きたのが大戦前のドイツだからなぁ・・・
第二次大戦後のドイツの対応って、悪いことはすべてヒトラーとナチスの責任にして逃げちゃったんですよね。
実際には作中でもヒトラーが言ってますが、戦時中の出来事についての責任を指導者が取るのは当然だけど、その総統を支持して指揮権を与えていたのはドイツ国民だった訳です。
だからここまで中立的なヒトラー本がドイツで出たことには驚きです。
あの時代のドイツの状態についての私の見方は、ヒトラーを主軸にする壮大なナチスごっこ遊びにドイツ国民の多くがはまっていたというものです。
日本の場合は明治維新ごっこから始まって、それが終戦まで続いちゃったという感じですかね。
第二次世界大戦においてヒトラーの果たした役割は大きいものでしたが、ヒトラーがいなくてもあの規模の戦争はいずれ起こっていただろうと私は思います。
あれは何が悪かったかというと、技術の発達によって人口が増加したり貿易規模が大きくなったというのに、政治体制が旧態依然の帝国主義であったせいで、多国間で資源の配分を変えようとすると戦争という国家暴力に訴えるしかなかったことです。
その点については同じように考える人が多数いて、その人達が主導して今のEUが出来た訳ですね。
その一方で、自分達は何も悪くなくて悪いのは戦争を始めた奴らだけだと思い込んでいる人達もたくさんいて、彼らの歴史から何も学べない愚かしさには嘆かわしい限りです。
被害者面してパレスチナに銃口を向けているイスラエル政府なんて、そんな馬鹿の筆頭ですね。
あの第二次世界大戦の後で、日本とドイツにとって良かったのは、戦争が犯罪であるという当たり前のことを当たり前に認められたことです。
迂闊にもあの戦争に勝ってしまった連中は、今だに戦争が犯罪であることを認める機会を逸して、今も戦死者を各地で大量生産し続けている馬鹿っぷり。
まさに馬鹿は死ななきゃ治らないを地で行っている訳ですね。
特に国連決議を無視できる常任理事国による戦争犯罪の多さは目に余ります。
あの愚かしいギャング集団を裁くことも出来ないどころか野放しなのが、現代の大きな悲劇であり矛盾です。
国際的な外交ルールが間違っているので、当然大きな間違いが常に発生していて、多くの人達が今の状況はおかしいと気づいているのに、その原因を正すことが出来ない。
だからひたすら不満だけが高まってきて、その勢いで懐古的な国家主義が各地で流行っているのでしょう。
まあ国家主義なんて今の問題の解決からは程遠いんですけどね・・・
個人的には、戦後生まれの人間が戦前の歴史についての責任を持つ必要はないと思います。
戦後生まれのドイツ人はナチスについてもっと自由に語っていいし、ドイツに生まれていない人達だってナチスの起こした悲劇から色々と学んでいけばいいのです。
過去の歴史は全人類の教科書であり、一部の集団が背負い続ける罪ではありません。
それを世代を超えた罪のように扱う輩は、歴史を政治利用している愚か者でしかありません。
特定の国や民族を歴史によって貶める行為は、ナチスがユダヤ人に対して行ったのと同じ手法だというのに、連中は歴史から何も学ぼうとしない阿呆なのです。
戦勝国といわれている連中がいかに過ちの袋小路に閉じ込められているか、そろそろ皆気づくべきなんですけどねぇ・・・
ドイツでこんな本がヒットしたことは基本的に喜ばしいことですね。
ただ終わり方がフランス映画的というか、クライマックス感も総括的なものもなくフェードアウトするのは物足りない気分ですが・・・
続編が出るとなると時期的に難民問題が出てきそうですが、ヒトラーが難民についてどう言うのか気になり過ぎるのでぜひ続編を出してほしいです。