kindle沼日記

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水辺の怪

今週のお題「ゾクッとする話」

 

先日はネタに走ってしまいましたが、実は私はホントに水辺でぞくっとしたことがあるんですよ。

 

それは大学生の頃のお話なので、今から二十年は昔のことです。
私は当時、東広島という辺鄙なところに住んでいました。
そこは大学が移転したことで急に若者人口が増え、地元の農家が副業としてアパート経営に乗り出すのがちょっとしたブームになっていました。
見渡す限り一面の田圃のど真ん中に、ぽつんぽつんと洒落たアパートが建てられていて、非常に奇妙な風景であったのを今でも覚えています。

 

あれは四月の中頃、春先とは言え標高が高いのでまだ肌寒い時期でした。
どんな用があったのかは忘れたのですが、夕方の7時ごろに私は自転車で大学に向かって急いでいました。友人だか教授だかに、実験かなにかの要件で呼び出されでもしたのでしょう。もう太陽は地平線の向こうに消え、曇っていたせいで月明かりもなく、川辺を自転車のライトだけを頼りに走っていたのです。

 

その道は比較的大きな通りをつなぐ抜け道のようなものなのですが、歩くと20分は掛る距離なのにまったく街頭もなく、田圃と川に挟まれた土手なので左右どちらにも転落出来るということもあり、暗くなると利用者はほとんど居ないのです。
その薄暗い道を半ばまで差し掛かった時でした、若い女性のすすり泣く声が聞こえてきたのです。
見渡すと、よりによって柳の木の下に、白っぽいワンピースを着た女の人だ立っていました。どうやら向こうもこちらに気づいたようで、視線は感じるもののすすり泣く声は止まりません。そのまま自転車を加速して一気に走り抜けたい誘惑に駆られましたが、もしその女性が生身の人間なら見過ごす訳にもいきません。

ちょっと迷ったものの、結局スピードを弛めてその女性に声を掛けることにしました。

 

どうしたのかと尋ねると、道に迷ったという返答。
いやいやここ一本道のど真ん中なんですが・・・再びその場から立ち去りたい気分が湧き上がりました。

しばらく根気よくやり取りして、その女の子が大学の新入生であるとこ、新歓パーティーに呼ばれて知合いのアパートへ行く途中だったこと、ここまでは地図を見ながら歩いてきたこと、予想外に早く日が暮れたので立ち往生していたことなどが判明しました。

またそれまで私のように自転車で何人か通りがかったものの、声をかけると皆そのまま走り去ったようです。そりゃね、日が暮れた真っ暗な川辺の柳の下で女の子が泣いてたら、皆逃げると思いますよ・・・
それで私の時には自分から声をかけず、様子を窺っていたそうです。
ホントやめてよね、それ怖いから・・・

 

女の子の行く予定のアパート名は私の知らない名前で、そもそもその辺には前述の通り田圃の真中に無作為にアパートが建てられている地域です。アパートへの道はどれも狭いあぜ道しかなく、懐中電灯でもなければ無事にたどり着くことも出来ないでしょう。
まだ携帯電話が一般に普及する前の時代だったので、私は仕方なく女の子の手を引いて公衆電話のある通りまで戻りました。
電話で知り合いと連絡がつき、迎えに来てくれるという話だったのと、そこそこ人通りのある場所だったので、私はそこで女の子と別れて大学まで自転車を走らせました。

 

ホントなら女の子の知り合いが来るまで待ってあげるべきなんでしょうが、私は私で急いでいましたし・・・
それにそこに辿りつくまでの10分間、その女の子の手はずっと冷たいままだったんですよ・・・

臆病だと言われても、少しでも早く、その場から立ち去りたかったのです。

まあ結局その辺で事件や事故があったなんて話も聞かなかったし、私が女の子の手を引いて公衆電話に来たとこを目撃していた人も居たので、あれは実在していたのでしょう。女の子から聞いたアパート名、後で確認したら誰も知らなかったんですが、それも聞き違いか何かなのです。
多分、きっと・・・