kindle沼日記

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「ヒカルが地球にいたころ……」を読み終わって

ついに「ヒカルが地球にいたころ……」が完結しましたね。

 

死んだ人間の元カノ達への心残りを主人公が解決していくという変則的ハーレムもので、ミステリー要素をプラスしたラブコメという感じでしたが、実にストイックな話の進め方がお気に入りのシリーズでした。

 

タイトルにも出てくるヒカルは一巻の初っ端で死んでしまい、その後は幽霊として主人公にとりつく訳ですが、この生前はいろいろな女性と付き合っていた幽霊の扱いが凄くストイックなんですよ。

 

まず幽霊と意思疎通できるのが主人公だけです。
初めはそれでよくても、登場人物が増えてくると主人公としか喋れないキャラなんて扱いが難しくなるので、たいていは途中で秘密を共有するキャラが増えるんですよ。
ほら、同じレーベルの「犬とハサミは使いよう」も初めは主人公とヒロインしか意思疎通できなかったけど、あれよあれよという間に主人公の秘密を知ってたり意思疎通出来たりするキャラが増えたでしょ。
でもこちらはずっと幽霊の存在は主人公にしか認識できないまま話を続けるんですよ。主人公も幽霊のことは誰にも言わないですしね。主人公が知りえない幽霊の生前の知識がなければ、幽霊は単に主人公の妄想でしたという展開の伏線なのかと疑うくらいです。

 

次に幽霊には便利な特殊能力が何もないんです。
これは推理要素があることから発生する縛りなのかもしれませんが、幽霊は主人公の側から離れることが出来ず、幽霊の見聞きできるものは常に主人公と同じなんです。
幽霊が他の人から見えないという特性を生かして偵察に出かけたり、ポルターガイスト現象を起こして物を動かしたりはできません。あまりに自由に動けると逆に話が破たんしかねないですが、制限つきで好きな場所に行けたり物を動かせたりできる設定は多いですよね。その方が話の展開に幅ができますから。
でもこの物語では幽霊は単に主人公の精神的付属物に過ぎず、物事に干渉できるのは主人公だけなんです。

 

最後に幽霊の目的が生き返りや生まれ変わりじゃないんですよね。
誰かへの復讐ですらなくて、幽霊自身は自分が死んでしまったことは仕方がないと運命を受け入れています。成仏できない理由は彼自身にもよく分かってなくて、ただ死に別れた彼女達との約束が果たせないのは心残りだと言うので、
主人公は幽霊が彼女達と交わした約束を一つ一つ幽霊の代わりに引き受けていくのです。
物語的には一巻ごとにメインのヒロインが居て、そのヒロインにヒカルの死を受け入れさせる展開です。所詮人ひとり死んだところで世の中は動き続けるのは当たり前のことですが、主人公(と死んだ当人)がその当たり前のことを促す側というのはちょっと珍しいですね。
死者が復讐する話とか、最近では死なないように時間を巻き戻す話とかはよくあるんですが・・・

 

ただこの物語でヒカルの死を一番受け入れていないのは、実は主人公なんですよね。


そりゃ生前はよく知らなくて、死後は幽霊としてずっととりついているんですから、
もうこの世に居ない人間だという実感持ちにくいでしょう。むしろいつでも一番側にいた存在です。
その主人公が幽霊の死を受け入れざるを得なくなるのがこの最終巻。
シリーズ十冊に渡って共に過ごしてきた友人とついにお別れする訳ですから、いろいろと切ないです。一巻ごとにメインのヒロインが変るシリーズでしたが、最終巻のヒロインは主人公の是光だったと思います。二巻連続でヒロイン枠が男というのもアレですが・・・

 

人の死を受け入れる物語としては「はるかリフレイン」も好きなのですが、あちらがタイトル通り繰り返し系のお話で幼馴染の死を回避しようというタイプなので、こちらとはいろいろと対照的。こちらはkindle化されてないけど、Jコミで無料公開されてたので、興味ある人は読んでみてください。

 

kindle化といえば卓球場シリーズもまだなんで、ファミ通文庫はもっと頑張ってください。