kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

「折れた竜骨」を読んで

作者の米澤穂信と言えば、性格の悪い高校生を描いた小市民シリーズが有名で続きはいつ出るんですかと思わずにはいられない訳ですが、今回はkindleでお安くなっていたコレを読んでみました。

 

いや、とても面白かったですよコレ。
ジャンルは推理小説になってますが、様々な魔術が実在している中世ヨーロッパが舞台になってます。ファンタジーとのハイブリッドという訳ですね。

 

実は私、この手の異世界推理物はあまり好きじゃないんです。そもそも推理小説自体、あまり読みません。


私は物語を好む性質だし、その中でも積み重ねていくタイプのものが好物なので、
謎解きメインの話だと肌に合わないんですね。しかも謎解きメインの場合、長編になる程の量だと謎解きに必要な情報量が多すぎて作者による情報操作が容易に行えます。クイズとしては不誠実なんですよ。
謎解きメインにするなら短編に限ります。それ以上の量は問題提出者が有利過ぎて知恵比べが成立しません。
まして架空世界が舞台となると、やろうと思えばなんでも出来てしまいます。そんなところでトリックなんて言われても、マルチ商法の勧誘程度の信用度でしょう。
だから私が長編推理小説を読む場合は、推理要素をまったく評価しません。

 

それにしても面白いですよ、コレ。
舞台はイギリスの小島なんですが、比較的平和なその島に海賊が襲撃してくる可能性が出てきたのです。それでその島の領主が傭兵を集めるのですが、集まったのは言葉も通じない小汚い身なりの蛮族の女戦士・盗賊まがいの部下十数人を引き連れた胡散臭いドイツ人騎士・ゴーレムを操るイスラム教徒の魔術師・無愛想なウェールズ人の弓使いと気弱なその弟。それに戦いの記録をさせるために呼んだ吟遊詩人と、領主を狙う暗殺者を追いかけて島にきた地中海出身の騎士。
彼らが領主と謁見したその夜に領主は暗殺され、そこから地中海の騎士が領主殺害犯を探すという流れなのですが、海賊の襲撃も当然捜査をまってはくれません。


この一癖も二癖もある連中が街を守るというのは、ようは七人の侍ですね。
推理パートの尋問がうまい具合に傭兵達のキャラ紹介になってます。個人的には七人の侍パートをもっと膨らませてくれた方が好みなのですが・・・

私のお気に入りキャラはウェールズ人の弓使いです。領主に彼を紹介した兵士が、彼が八十フィート先の桶を射抜いたと言うと、あの桶は大きかったとわざわざ訂正するのです。人に騙され続けてすっかり捻くれたけど、根っからの正直者という感じ。しかも弓の腕はタクティクス・オウガのアロセール並みですよ!

 

魔法や魔術の扱いも良かったです。
最近の傾向として、魔法やら魔術やらはやたら体系化されて原理まで説明されてたりするものが多いです。そういうのも好みではありますが、時代背景にあっていないと感じることも多々あります。ぶっちゃけ中世レベルの文明しかない世界で、やたら体系的な知識を持っているキャラが出てくると違和感があるんですよね。
読み書きもそんなに普及していない時代、いろいろな知識は広めることも困難だし、多くは秘術として秘匿されている訳で、識者の見識も偏ってるのが当たり前なんです。そんな世界で体系的な知識を持つには、よほど特殊な背景が必要です。


この物語では、ドルイドの魔術や古代ギリシャの魔術なんかが出てきますが、それらはどういうことが出来てどういうことが出来ないかという道具的側面以上には掘り下げられていません。それは推理小説として必要な処理ではあったのでしょうが、時代背景にも合ってる感じで良かったです。


ただちょっと登場人物達がいい人すぎる気がするんですが・・・なんか作者の現代ものよりいい人率高い気がするんですが・・・まあ細かい不満がない訳でもないんですが、久しぶりに最後までむさぼるように本を読みましたよ。

 

性格の悪い連中しか出てこない小市民シリーズもお勧めです。