kindle沼日記

電子書籍のことを中心にまったりとやっていきます

「巷説百物語シリーズ」を読んで

前のKADAKAWAのセールの時に、お安くなっていたシリーズをまとめ買いしたのですよ。

 

私は京極さんの本は嫌いでもないけれどそれほど好きでもない程度で、特に通勤時が読書のメインなので分厚すぎる本というのは電子書籍でもなければ買うのが躊躇われていたのです。
それでも「百鬼夜行シリーズ」の方はちょくちょく読んでいたのですが、こちらの方はつまみ食いする程度でした。

 

舞台は主に江戸時代の終盤なので、話のジャンルとしては時代小説でいいんでしょうか。コンセプトとしては「百鬼夜行シリーズ」の逆で、あちらが怪奇現象としか思えない出来事を解体して人の手による事件だとすっきり解き明かすのですが、こちらは人の手による事件を怪奇現象に見立ててうやむやにしてしまうというものです。
例えば武家の子が大切な皿を割ってしまって親がそれは農家の子の仕業だと勘違いしてしまう、武家の子は罪を認めて親に打ち明けるけど、もう事が公になって今さら間違いでしたとは体面上言えなくなってしまった。そんな時に、その皿を割ったのはその屋敷に住む妖怪のせいだったということにして、その妖怪を退治する振りをして一件落着という訳です。
人の仕業なら裁かねばなりませんが、神様のやることなら文句も言えない、でも神様を騙るのは恐れ多いので、妖怪くらいがちょうどいいという訳ですね。
そういう仕掛けを裏稼業にしている連中のお話です。
そういう構造なので、推理小説的要素はあるものの推理小説ではありません。どちらかというと必殺仕事人に近いでしょう。

 

巷説百物語
巷説百物語

 

シリーズ一作目と二作目ですが、この二つはセットですね。時系列が前後していて、一巻の一話の後に二巻の一話、その後に一巻の二話と順繰りに辿っています。
山岡百介という怪談大好きな作家志望の若者が、やむにやまれぬ事件を妖怪の仕業に見せかける御行の又市の一味と出会ってから別れるまでの数年間を書いてます。
百鬼夜行シリーズ」では長編だけあって長い時間をかけて舞台装置を整えるので異常な状況も異常性癖もそれなりに存在感があるのですが、こちらは短編ということでトリックや事件の要因にちょっと唐突な印象を受けることもちらほら。

 

後巷説百物語


こちらは明治維新後で、老人になった百介が過去を回想するという構成です。
不思議な出来事を好む若者達の集まりみたいなものがありまして、そこで議論に煮詰まると百介の住む庵を訪ねて意見を聞きにいく訳です。それに答える形で百介が「それと似たような感じで、昔こんなことがありまして・・・」と又市達との仕事のことを仕掛けの部分を省いた怪談として語り聞かせ、その後であの仕事のからくりはこういうことだったという注釈が入ります。
構成上話があちこちに飛びますし、文体もころころ変わるのでかなり読みづらいのですが、私はこれがこのシリーズで一番ロマンティックな話だと思います。
文明開化の波ですっかり時代遅れとなった妖怪達、それが存在していてほしいという百介の願いが込められていると感じます。
最後も切ないですし・・・

 

巷説百物語

 

こちらは時代を遡って、御行の又市がその稼業を始める前のお話です。

この巻になるともう推理要素はないですね。まず依頼人が居て、その依頼をどうやって果たすかという必殺仕事人とおなじ話の運びになってます。
口先だけで人を騙すだけが取り柄の小悪党が、例え憎くても人を殺めることはいけないという青臭い信念を貫く為に試行錯誤して、八方丸く収める仕掛けを考えるのです。その結果生まれたのが、妖怪仕掛けな訳ですね。
基本的に勧善懲悪路線ですが、それぞれの立場によって見えるものが違ってくることまで織り込んでいるのでなかなかに奥深いです。
若いころの百介も最後にちらりと出てきますが、若いからというより語り手じゃない百介が外からどう見えるかというのがちょっと新鮮。

 

西巷説百物語

 

こちらは妖怪ではなく、幽霊のお話です。
時期的には巷説百物語と同じ頃で、大坂が主な舞台。主人公も前巷説百物語の頃の又市の相棒の林蔵になってます。
妖怪と違って幽霊は人が死ねばどこでも出てくるものなので、その分仕掛けもすっきりしていて、いろんな意味でシリーズで一番分かりやすいお話です。そう言う意味ではこの巻から読むのもアリだと思います。
最後の方に又市と百介も出てきます。
ただこの百介、時系列的には巷説百物語の頃の百介と同じですが、感覚的には後巷説百物語の後の百介のような気がします。それは語り手の時にはいろいろとその内面にも触れられていた百介を、一登場人物として外から見ることで印象が変わるということなのかも知れませんが、ちょっと純粋過ぎてきらきらしすぎていると思うのです。
化け物に憧れ続けた百介が、天寿を全うした後に再び化け物を追いかけて過去に遡ったような、そんな印象を受けるのです。幽霊が主体の物語なので、そんなこともあっていいかなぁと・・・

 

そんな感じで既刊を一気に読んだ訳ですが、実はこれ完結してないですよね。
作中では時間があちこちに飛んでますが、まだ詳細を語られていない重大事件が残っていますし、意味ありげな行方不明者もいます。その辺の伏線を回収する話がいつか出ることを期待しています。