kindle沼日記

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竹河聖著「風の大陸」全巻セットを読み終えて

いのまたむつみさんの挿絵で有名な「風の大陸」の全巻セットをセールの時に買って、途中何度も中断しながらようやく読み終えたのですよ。

 

何故そんな苦行をしたのかというと、あの「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく」バブル期という汚らしい時代をきちんと俯瞰してみようかと思い立ったからなのです。

この「風の大陸」はノストラダムスの大予言が流行っていた世紀末という時代に、「大災害を回避する為の冒険」というキャッチーなネタを使って書かれた、時代の背景と切っても切り離せない作品ですからね。


実際に読んでみると本編より後書きの方が世相を反映していて興味深かったです。

この話は、乱れた世の中で心美しい人達が艱難辛苦を乗り越えて人々を導いてくれるという、民族学で言う所の貴種流離譚の典型です。更に全体的に、パワースポットとか言ってるエセ自然信仰的なうさんくささがぷんぷん漂っています。
途中でお偉い人が貧民層を民主主義という言葉で焚きつけて革命を起こそうとするネタもありますが、アラブの春を経験した後でそんな夢物語を見ると悲しさ倍増。


要所要所で後書きが、「最近の世の中はけしからんもっと行儀よく出来ないのか」的な上から目線の
書き方で、なるほどこんな人が書くとこの程度の話になるのかと凄く納得できます。

もう典型的な、古い時代の人による古い時代の物語なのです。
世の中には悪い奴と清い人達がいて、清い人達が悪い奴をやっつければ世の中は平和になるというアレです。
当然、自分は清い側についていると無自覚に思いこんでるアレです。

 

今は価値観が多様化していて、誰もが誰かの権利を妨害しているし、一人一人がお互いの意見を尊重して落とし所を見つけていこうという時代ですからねぇ・・・
あちこちでテロや戦乱が止まないのも、先進国の皆様が後進国の人達を札束でぶん殴って必要な物資を奪ったり、相手の尊厳を踏みにじっているからですし。
先進国に生まれて豊かな暮らしを満喫しながら戦争は悪いことだと言われても、説得力ありません。
豊かな暮らしを捨てるか、豊かな暮らしを維持しつつ使用するリソースを最小化する努力くらいしてもらいませんと、誰も納得できない時代になりつつあるのです。

 

そんな訳ですら、せっかく全巻セットを買ったのに最後まで読めなかったという人の為に、他の人達に最後まで読んだと思わせる方法でも書いておきましょう。

 

まずこの本で特徴的なもののひとつが会話シーンです。
誰かと会話する時は、相手の言った内容を馬鹿みたいに繰り返しましょう。
「馬鹿みたいに・・・繰り返すのですか?」
そうです、会話のテンポとか考えずにとにかく繰り返すのがポイントです。
「会話のテンポとか考えずに・・・とにかく繰り返す・・・」
それであなたと会話している人は、あなたが「風の大陸」を読んだと確信してくれるでしょう。
風の大陸」を知らない人はあなたのことを馬鹿だとしか思わないでしょうから、使う相手は慎重に選んでください。
「慎重に・・・選ぶのですね」

 

次のポイントは、戦闘シーンでの大げさな擬音です。
剣を抜いた時は「シャキーン」、剣を突き立てた時は「ガシュッ」、
剣を袈裟がけに振りおろした時は「ズシャー」、相手の首を斬り飛ばした時は「スポーン」、
相手の前でずっこけた時は「チンピョロスッポーン」。
どんなにシリアスな場面でもこのようなありふれた擬音で行数を稼げば、相手はあなたが「風の大陸」を読んだと確信してくれるでしょう。
風の大陸」を知らない人はあなたのことを馬鹿(以下略)

 

後は地球のことをガイアとか呼んだり、人のオーラが見えるフリしたり、エセ自然主義者っぽく振る舞っていれば多分大丈夫です。

 

それにしても第一部は似たような名前の人が多くて混乱します。
日本風に言えば山田太一と田山光一と光山一太というキャラが同時に出てくるレベル。
それと電子書籍化の時に碌にチェックしていないのか、段落が行間なしに繋がっているところが多々あって、とても読みづらいです。

 

そんな感じの「風の大陸」全巻セットではありますが、最後までページをめくらないといのまたさんや若菜さんのイラストが見れないので、頑張ってください。

さて、まったく手つかずの捨てプリとかリウイの全巻セットどうしよう・・